佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る シャンプー室側からエステ待合と階段室への開口部を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る エステ待合からシャンプー室側を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 奥側のカットスペース photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 壁と床の詳細 photo©原田要介
nevertheless / 佐河雄介建築事務所 が設計した、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」です。
“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画です。建築家は、新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向しました。そして、下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作りました。
計画建物は、熊谷駅から徒歩数分の3階建て鉄骨ビル。
築60年ほどのビルで、1,2階はテナントとして、これまで様々な用途で使われてきた。
オーナーは2年ほど前に1階部分を借りて女性専用美容室として開業したが、手狭になったため、新たに2階部分を改修することにした。2階部分では、ヘアサロンに加えて、新たにフェイシャルエステなどエステ部門のスペースを新設したいというのが要望だった。
2階部分は、かつて飲食店や雀荘として使われていた。既存のモザイク柄の床材には、たばこの焦げ跡や傷跡が残っている。そのテクスチャーが時間の蓄積によるマチエールのようで面白いと感じた。鉄骨梁には、建て方をした時の職人の足型や、隅出しの文字が残っていた。これらの既存材料を可能な限り残しながら、新たな素材で空間をつくることを最初の目標とした。
新たに使う素材は、既存素材と新旧対比としてのものではなく、既存の素材と調和し、映し出すようなものが良いと考えた。
また、この美容室はカラースタイルを得意としている。色とりどりの女性たちのスタイルやカラーが引き立つような素材が望ましい。
そこで注目したのが、灰色と銀色である。
美術史家の岡田温司は、一般的に没個性で匿名的な色と言われる灰色の魅力について、歴史上の哲学者や画家を引き合いに出し、以下のように述べている。
このテクストは、灰色について述べたものであるが、映り込みにより何色にも染まる、非人称な存在は、銀色にも置き換えて考えることができるのではないか。つまり、灰色(銀色)は、何色でもなく環境や他者を映し出す特別な色といえるのではないか。
そんなことを考えながら、この改修では間仕切壁に、本来は壁の下地で使う角スタッド(45mmx65mm)を使用している。
安価であり、工業製品であることから比較的精度にバラつきがない。一方で、溶融亜鉛メッキ処理された鋼板が、周囲を鈍く映しだし、メッキ処理のわずかな仕上がりの違いが繊細な濃淡をつくるのではないかと考えたからだ。
以下の写真はクリックで拡大します
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 上階への階段 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 上階への階段の詳細 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る シャンプー室側からエステ待合と階段室への開口部を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る エステ待合、床と壁の詳細 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る エステ待合からシャンプー室側を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る カットスペースへの通路 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る カットスペースへの通路 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 通路からルーバー越しに手前側のカットスペースを見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 手前側のカットスペース photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 手前側のカットスペースの横の開口部を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 手前側のカットスペースからシャンプー室側を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る シャンプー室 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 奥側のカットスペース photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る カットスペースからパウダールームを見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る カットスペースから通路側を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る エステ待合からフェイシャルエステサロンとまつげサロンの出入口を見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る エステ待合からまつげサロンを見る。 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 壁と床の詳細 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 壁と床の詳細 photo©原田要介
佐河雄介建築事務所による、埼玉・熊谷市の美容室「STUDS」。“時間の蓄積”を感じる古ビルの中での計画。新旧の素材の“調和”を求め、環境や他者を映し出す性質を見出した“灰色と銀色”を用いる空間を志向。下地材の”角スタッド”とグレーの素材や塗装を組み合わせて作る 平面図 image©nevertheless / 佐河雄介建築事務所
以下、建築家によるテキストです。
計画建物は、熊谷駅から徒歩数分の3階建て鉄骨ビル。
築60年ほどのビルで、1,2階はテナントとして、これまで様々な用途で使われてきた。
オーナーは2年ほど前に1階部分を借りて女性専用美容室として開業したが、手狭になったため、新たに2階部分を改修することにした。2階部分では、ヘアサロンに加えて、新たにフェイシャルエステなどエステ部門のスペースを新設したいというのが要望だった。
2階部分は、かつて飲食店や雀荘として使われていた。既存のモザイク柄の床材には、たばこの焦げ跡や傷跡が残っている。そのテクスチャーが時間の蓄積によるマチエールのようで面白いと感じた。鉄骨梁には、建て方をした時の職人の足型や、隅出しの文字が残っていた。これらの既存材料を可能な限り残しながら、新たな素材で空間をつくることを最初の目標とした。
新たに使う素材は、既存素材と新旧対比としてのものではなく、既存の素材と調和し、映し出すようなものが良いと考えた。
また、この美容室はカラースタイルを得意としている。色とりどりの女性たちのスタイルやカラーが引き立つような素材が望ましい。
そこで注目したのが、灰色と銀色である。
美術史家の岡田温司は、一般的に没個性で匿名的な色と言われる灰色の魅力について、歴史上の哲学者や画家を引き合いに出し、以下のように述べている。
「しかしながら、見方を変えれば、だからこそ逆に無限のニュアンスに開かれた色でもある、灰色は。微妙な濃淡の変化、光と影の戯れ、明暗の繊細な機微、灰色はそういったものを表現できる可能性を秘めた色でもある。まさしく、災い転じて福となすである。みずからはいかなる特性ももたないがゆえに、いかなる色にも染まりうるという潜勢力を宿しているのである。」(※1)
また、以下のようにも述べている。
「つまり、こういう色だと肯定的かつ断定的に述べることができないという点にこそ、灰色の積極的な意味があるのだ。自己を主張するというよりも、他者から受け取ったものを送り返すこと。没個性の個性、非人称の人称、それが灰色である。」(※2)
このテクストは、灰色について述べたものであるが、映り込みにより何色にも染まる、非人称な存在は、銀色にも置き換えて考えることができるのではないか。つまり、灰色(銀色)は、何色でもなく環境や他者を映し出す特別な色といえるのではないか。
そんなことを考えながら、この改修では間仕切壁に、本来は壁の下地で使う角スタッド(45mmx65mm)を使用している。
安価であり、工業製品であることから比較的精度にバラつきがない。一方で、溶融亜鉛メッキ処理された鋼板が、周囲を鈍く映しだし、メッキ処理のわずかな仕上がりの違いが繊細な濃淡をつくるのではないかと考えたからだ。
今回の計画では、ヘアサロン部分とエステ部門を仕切る必要があった。しかし、オーナーとしては、それぞれの部門に来たお客さんがもう一つの部門に興味をもってもらえるようにしたいという思いもあった。
その為、視線を遮りたい部分はスタッドを密実に配列し、気配を滲みだしたい部分は疎らに配列することで、壁でありながらルーバーのようにもなる間仕切壁をつくることにした。
上げ床の仕上げにはグレーの塩ビタイルを用いている。壁は床よりわずかに明るいグレーと、限りなくホワイトに近いグレーを2色塗り分けている。
映り込みと微妙なトーンの違いが、光の加減や人の動きでわずかに空間に揺らぎを与える。
ここまでの材料や構成が硬質なものと感じたので、アクセントでスタッド間にアクリル板を散りばめている。窓から光が差し込むと、アクリルの影が伸び、グレーの床に線を描く。アクリルはスタッドの特性を生かし、磁石で挟み込んでいるだけなので簡単に取り外しできるようにした。季節やシーズンのテーマに合わせて、アクリルの色を変えることを想定している。
本計画では、意識的に灰色と銀色の素材を使用したが、前職で担当した物件まで含めると、これまで多くの建築で灰色や銀色の素材を使用してきた。岡田氏の言葉を借りれば、「いかなる色にも染まりうる潜勢力を宿している」ところに惹かれているのだと思う。引き続き灰色と銀色の素材について探求していきたい。
(※1,2 岡田温司『半透明の美学』、岩波書店、2010年より)
■建築概要
件名:STUDS
所在地:埼玉県熊谷市
主要用途:美容室
工事種別:改修
意匠設計監理:nevertheless / 佐河雄介建築事務所 担当/佐河雄介
施工:株式会社内田産業 担当/橋本太郎
延床面積:64㎡(2階)
設計期間:2024年6月~2024年9月
施工期間:2024年9月~2024年12月
竣工:2024年12月
写真:原田要介